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災害時の「帰れない」を想定して
企業の帰宅困難者対策とBCP

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1. はじめに:なぜ今「帰宅困難者対策」なのか

1. はじめに:なぜ今「帰宅困難者対策」なのか

都市部で働く人にとって、
「災害時に自宅へ帰る」という行動は、当たり前のようで、
実は最も難しい選択になることがある――

そんな話を耳にしたことはないでしょうか。
内閣府(防災担当)の「大規模地震の発生に伴う帰宅困難者等対策のガイドライン外部リンク」にもあるように、
地震や大規模災害時は、むしろ「会社に留まる」ことが安全であるというケースが多いことが分かってきました。

東日本大震災(2011年3月11日)では、鉄道・道路が一時的に機能しなくなり、
多くの人が帰宅困難者となり、会社・学校・駅で夜を明かしたと言われています。

「無理に帰らない」= 自分と誰かを守る行動
と国や自治体が呼びかけている背景には、徒歩で帰宅する行為自体が危険であったり、帰宅困難者で道路が混雑し、緊急車両が通行できなくなる、という二次被害を防ぐ目的もあるようです。

実際に、内閣府「大規模地震の発生に伴う帰宅困難者等対策のガイドライン外部リンク」では、首都直下地震等が発生した場合、都市圏で数百万人規模の帰宅困難者が発生する可能性があると示されています。

つまり、会社に出社していた社員が「帰れない」「帰るべきかどうか迷う」状況に陥ることが、決して“まれな例”ではなくなってきているのではないでしょうか。

このとき、企業が備えておくべきは「帰宅困難になるかもしれない」という前提に基づいた備え」 です。設備が無事でも、交通が止まり、社員が帰宅できなければ、事業継続(BCP)という観点からも大きなリスクになります。

企業として、社員の安全確保とともに「事業を止めない仕組み」を考えるならば、“帰宅困難者対策”をBCPの中に位置づけ、帰宅困難時の動き方・判断基準・社内体制を明確にしておくことが、今、ますます求められています。

2. 帰宅困難者対策とBCPの関係性

帰宅困難者対策とBCPの関係性

ガイドラインには、企業等に期待される取組として次のような記載があります。
“企業等における施設内待機の計画策定と従業員等への周知”“企業等における施設内待機のための備蓄”
具体的に、帰宅困難者対策をBCPの視点から整理すると、以下の関係性が見えてきます。

● 備蓄(モノ)だけでは不十分
備蓄はもちろん重要です。水・食料・簡易トイレ・毛布など、発災直後から3日程度滞在できる体制を用意するという考えも、ガイドラインでは示されています(備蓄量の目安は3日分)。
しかし備蓄だけ整っていても、社員が「どう動くか分からない」「帰宅できないかもしれない」と思ってしまえば、混乱が生まれます。そこで、BCPとして必要なのは“判断基準・行動マニュアル”です。

● 判断基準の明確化
例えば、「鉄道が全面停止している」「復旧のめどが立っていない」「徒歩帰宅が危険という自治体判断が出ている」など、帰宅可否を判断するための情報と基準をあらかじめ社内で決めておくことで、迷いが減ります。ガイドラインでも「むやみに移動を開始しない」「企業等における施設内待機」が推奨されています。

● 行動マニュアルと社内共有
企業防災では、実際に発災したときに「誰が何を」「どこで」「どのように」動くかがカギとなります。

ガイドラインにある「施設内待機」「一斉帰宅抑制」「分散帰宅の基本原則」などの考え方を、自社の業務や立地条件に落とし込むことがBCPには欠かせません。
加えて、社内でそのマニュアルを周知・訓練しておくことで、備蓄だけでは補えない“判断の遅れ” “混乱”を軽減できると感じます。

備蓄は“リソース”ですが、判断基準と行動マニュアルは“仕組み”です。
この両輪がそろって初めて、帰宅困難時にも「事業を止めない」構えが整うと私は思います。

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3. 企業が整えておきたい「帰宅困難時の社内体制」とルール

企業が整えておきたい「帰宅困難時の社内体制」とルール

帰宅困難者対策は、備蓄品をそろえるだけでは不十分です。
むしろ、社員の安全確保と事業継続(BCP)を両立させるためには、「どう判断し、どう動くか」というルールづくりが重要です。

内閣府のガイドラインでも「一斉帰宅の抑制」「むやみに移動を開始しない」など、人の行動を制御する考え方が軸になっています。
以下では、企業が整えておきたい体制を3つの視点から整理します。

① “判断基準”の明確化
発災直後、社員が最も悩むのは「帰宅すべきなのか、それとも待機すべきなのか」。
しかし企業として判断基準があいまいだと、個々の判断に委ねられ、結果的に混乱が生じてしまいます。
たとえば次のような基準を決めておくと、迷いが減り、統一的な行動につながります。

  • • 鉄道・バスが全面停止している場合は原則社内待機
  • • 自治体が“徒歩帰宅を控えるように”と発信している場合は待機
  • • ビルの安全性確認が完了するまではフロアから移動しない
  • • 安否確認が完了するまでは周辺への外出を控える

ガイドラインが推奨する「分散帰宅」や「施設内待機」の方針を参考に、自社の立地(商業地・工業地・オフィス街など)や社員数に合わせて基準をつくると、より実効性が高まります。

② “行動マニュアル”の作成
判断基準を決めたら、「じゃあ具体的に誰が何をするのか」という行動を明確にします。

行動マニュアルに盛り込むべき要素として、ガイドラインでは次のような内容が紹介されています。

  • • 一時滞在時の行動(安全な場所への移動、避難経路の確認)
  • • 社員の人数把握(在席者・外出者の確認)
  • • 備蓄品の配布ルール(優先順位、人数に応じた量の調整)
  • • トイレ利用、仮眠スペースの使用ルール
  • • 情報収集担当者の役割割り当て(公式情報のみを使用)

私自身、こうした行動の流れを確認したとき、「あいまいにしていた部分が多いかもしれない」と感じました。
特に、人数把握や役割分担は、企業の規模にかかわらずとても重要な項目です。

印刷ツールとしては、「社内掲示マップ」や、BCP計画の抜粋版である「BCP対策カード」などをつくることで、社員が備蓄の場所だけでなく、行動を理解する機会も増えます。

③ “情報共有”の仕組み
帰宅困難時に必要な情報は、主に次の3つです。

  • 1. 社員の安否状況の把握
  • 2. 交通機関の運行状況
  • 3. 自治体が発信する危険情報・避難情報

特に社員の安否確認は、事業継続の観点でも最優先事項とされています。
安否確認システムを導入していない企業では、
「誰が電話連絡をするのか」「どのツールを使うのか」
といったルールづくりが不可欠です。

普段から、部署ごとにコミュニケーション方法を統一しておくことで、災害時にも混乱が少なくなります。

4. まとめ:備蓄もルールも“従業員を守るメッセージ”

備蓄もルールも“従業員を守るメッセージ”

帰宅困難者対策は、備蓄品を追加するだけではなく、
「社員の命と安全を守る」という企業姿勢を形にする活動なのだと思います。

  • • 適切な備蓄
  • • 判断基準
  • • 行動マニュアル
  • • 情報共有の仕組み

これらがそろうことで、帰宅困難時にも事業を継続できるBCPが整います。

もし「うちの会社では何から始めればいいだろう?」という段階であれば、
まずは 帰宅困難時の行動マニュアルをまとめるところから始めてもよいかもしれません。


 

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