地震と違い、台風は「接近するタイミング」や「強さ・進路」などの予測情報が事前に手に入ります。
テレビやネット、気象庁の発表で数日前から情報が更新されるため、「いつ・どれくらいの台風が来るか」はある程度把握できます。
この“予測できる”という特性は、防災の面では大きな利点です。
しかし一方で、「まだ大丈夫だろう」「今回はそれほどでもないかも」と、過信や油断を生みやすい災害でもあるのです。
実際に、出社時に風雨が強まり、帰宅できずに会社で一夜を過ごすことになったり、
出社直後に電車が止まって帰宅困難になるケースも少なくありません。
また、工場や事業所では、看板が飛んだり、屋根が剥がれるなどの被害が毎年のように発生しています。
こうした被害や混乱を最小限にとどめるために重要なのが、「台風が来る前の初動対応」です。
初動とは、予報を見てから実際に台風が来るまでの間に企業が行う判断と行動のこと。
この初動の良し悪しが、被害の有無や社員の安全、業務継続に大きく影響します。
台風が来てから慌てるのでは遅い。
会社としてやるべきことは、事前に「やることを決めておく」ことです。
初動対応には、出社判断・連絡体制・設備対策・データ保護などがあります。
台風接近時、もっとも多くの企業が直面する課題が「出社判断」です。
社員からも「出社するべきか休みにするか」の問い合わせが殺到し、社内が混乱するケースが少なくありません。
この混乱を防ぐには、出社の可否を判断するための明確な基準を、平常時から定めておくことが大切です。
● 判断の基準例
これらの条件をあらかじめ社内で文書化し、社員に周知しておくことで、「どうすればいいかわからない」状態を防げます。
● 決定のタイミングも重要
また、出社の判断をする“タイミング”も明確にしておきましょう。
など、判断と通知のタイミングをあらかじめ取り決めておくことで、社員の混乱と対応の遅れを防げます。
● テレワークへの切り替えも視野に
特に近年は、災害時のリスクを避けるため、業務の一部をテレワークで実施する企業も増えています。
「出社は控えるが、在宅で可能な業務は行う」などの柔軟な方針も有効です。
こうしたルールを社内マニュアルやBCP(事業継続計画)に反映させておくことで、災害時の意思決定がブレず、
企業としての信頼性と社員の安全確保の両立が可能になります。
出社可否や業務対応の判断をいち早く伝えるためには、社内の連絡体制を平常時から整えておくことが不可欠です。
災害発生時、社内の誰が・いつ・どのように連絡を取り合うかが定まっていないと、混乱や情報伝達ミスが起き、社員の安全にも関わります。
● まず整えるべき「連絡の流れ」
最低限、以下のような連絡フローを明文化しておくことをおすすめします。
一斉に連絡できる体制があると、情報の伝達速度と正確性が格段に上がります。
● 社内SNS・連絡ツールの活用
LINE WORKS、Slack、Chatwork、Teamsなど、リアルタイムで連絡できるチャットツールの活用も有効です。
特にスマートフォンから確認できるものは、移動中や自宅待機時にも対応しやすく、災害時の情報共有に向いています。
ただし、インターネットが使えない事態に備えて、バックアップの連絡手段(電話・FAX)も整備しておくのが理想です。
● 安否確認の方法を決めておく
台風が直撃し、出社や自宅周辺に被害が出た場合に備えて、社員の安否確認方法も事前に取り決めておく必要があります。
「〇時までに必ず返信する」「応答がない場合は緊急連絡先に連絡する」など、ルールも明確にしておくことが重要です。
● 社員への周知は“平時”に
いくら制度を整えていても、社員がその存在を知らなければ意味がありません。
マニュアルを全社員に配布・共有したり、朝礼や掲示で定期的に再確認する機会を設けましょう。
災害時に“自分がどうすればいいか”を一人ひとりが理解していることが、初動対応のスピードを左右します。
台風は強風や豪雨によって、オフィスや工場などの建物や設備に甚大な被害をもたらすおそれがあります。
そのため、台風シーズンに入る前から、物理的な備えも万全にしておく必要があります。
● 窓・ドア・屋上・外壁の確認はマスト
● 浸水対策も忘れずに
豪雨を伴う台風では、建物の1階部分への浸水リスクが高まります。
● 事業停止リスクを最小限に抑える
設備の破損や浸水は、業務の停止や顧客への対応遅れなど、経営上の損失にもつながります。
点検チェックリストを作成し、台風が来る前に定期的な確認を行う体制を整えておきましょう。
特に、工場や物流施設では、生産・出荷スケジュールへの影響が大きいため、被害軽減の事前対策が重要です。
台風によって業務が一時停止せざるを得ない場合、顧客や取引先への対応をどうするかも重要な課題です。
影響を最小限に抑えるためには、事前の準備とコミュニケーションが不可欠です。
● 「いつまでに」「どこまで」対応できるかを明確に
台風による納期の遅れや問い合わせ対応の遅延などが発生する場合、早い段階で予測し、関係先に共有しておくことが信頼維持につながります。
こうした情報を前もって共有しておくことで、相手側の混乱や二次的なトラブルを防ぐことができます。
● 自社ウェブサイトやSNSの活用
多くの企業では、公式サイトやSNSでの告知が有効です。
これにより、電話がつながらない時間帯や担当者不在の際も情報を届けることが可能になります。
● 対応マニュアルを整備しておく
「災害対応の連絡テンプレート」や「休業時の顧客案内文例」などを平常時から準備しておくことで、いざという時の初動がスムーズになります。
一度整えておけば、他の災害時や緊急事態にも応用が効くため、防災体制の強化にもなります。
台風は毎年やってくる自然災害であり、その影響は従業員の命・事業継続・信頼関係すべてに及びます。
だからこそ、「直前になって慌てる」のではなく、平時から備えておくことが“初動対応”の本質です。
ここで紹介した対応策は、どれも特別な設備や費用を必要としない、中小企業でも実践できる内容ばかりです。
そして、これらを支えるのが【「見える化された仕組み」や「印刷物」などの備え】です。
たとえば:
こうしたツールを導入することで、従業員一人ひとりが“考えなくても動ける状態”を作ることが可能になります。
災害は、いつ・どこで起こるかは選べません。
しかし、どう備えるか、どう動くかは今から決められます。
「自分の会社は大丈夫」と思っていた企業ほど、想定外の事態に弱いもの。
小さな準備の積み重ねが、会社を守る“最大の保険”になるのです。